人手不足と移動負担——現場監理の限界が見えてきた
建設業では、工事の品質を確認するために発注者や監督員が現場に出向く「臨場」が欠かせません。しかし、技術者の高齢化や人手不足が深刻化するなかで、複数の現場を掛け持ちする監督員の移動負担は増す一方です。
こうした課題を解決する手段として、いま「遠隔臨場」が急速に注目を集めています。本記事では、遠隔臨場の基本から最新の国の方針、導入時に気をつけるべきポイントまでをわかりやすく解説します。
なぜ今、遠隔臨場が注目されるのか
国土交通省が本格的に推進
遠隔臨場とは、ウェアラブルカメラやスマートフォンなどの映像・音声通信機器を使い、発注者が現場に行かずに「段階確認」「材料確認」「立会」を行う仕組みです。
国土交通省は2022年度から全ての直轄土木工事で遠隔臨場を実施可能とし、受注者から申し出があった場合に原則として対応する方針を打ち出しました。これはi-Construction(建設現場の生産性向上施策)の一環であり、国が率先してデジタル技術の現場活用を進めている形です。
2024年問題が導入を後押し
2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。監督員が複数現場を回る移動時間は、そのまま労働時間に含まれます。遠隔臨場を活用すれば、事務所にいながら確認作業を行えるため、移動時間を大幅に削減でき、限られた労働時間をより有効に使えるようになります。
地方自治体への波及
国土交通省の動きを受け、都道府県や政令市などの地方自治体でも遠隔臨場を試行・導入する動きが広がっています。今後、公共工事全般で遠隔臨場が標準的な選択肢になっていく流れは加速するとみられています。
遠隔臨場の具体的な活用場面と効果
活用される主な場面
- 段階確認:コンクリート打設前の配筋検査など、工程の節目で行う品質確認
- 材料確認:現場に搬入された資材の規格・数量チェック
- 立会:測量や出来形計測など、施工状況の確認
いずれも従来は監督員が現場へ足を運ぶ必要がありましたが、現場の作業員がカメラ映像をリアルタイムで共有することで、遠隔地からの確認が可能になります。
期待できる効果
国土交通省が直轄工事で実施した試行では、発注者・受注者双方の移動時間削減や、日程調整の柔軟化といった効果が報告されています。具体的には以下のようなメリットが挙げられます。
- 移動時間の削減:片道1時間以上かかる山間部の現場でも、事務所から確認可能
- 日程調整の効率化:移動が不要になることで、確認日程が組みやすくなり、工期の遅延リスクが減少
- 記録の自動化:映像データがそのまま記録として残るため、書類作成の負担も軽減
- 天候リスクの低減:悪天候で現場訪問が困難な場合でも、確認作業を止めずに進行可能
導入時の注意点・よくある失敗
通信環境の事前確認を怠る
遠隔臨場で最も多い失敗が、現場の通信環境の問題です。山間部やトンネル内など、携帯電話の電波が届きにくい場所では映像が途切れ、確認作業が成り立ちません。導入前に現場のモバイル回線の状況を確認し、必要に応じてポータブルWi-Fiルーターや衛星通信機器の準備を検討してください。
現場スタッフへの教育不足
カメラの画角や映し方が不適切だと、発注者が正しく確認できません。「何をどの角度から映すか」を事前にルール化し、実際にリハーサルを行っておくことが重要です。機器の操作に慣れていない職人さんには、簡単な操作マニュアルを用意しましょう。
発注者との事前合意がない
遠隔臨場は受注者側だけで進められるものではありません。発注者に遠隔臨場の実施方法や確認項目を事前に説明し、合意を得たうえで始める必要があります。いきなり本番で使うのではなく、比較的シンプルな確認作業から試行的に始めるとスムーズです。
中小建設会社が始めるための5つのステップ
- 対象工事の選定:まずは移動距離が長い現場や、臨場の頻度が高い工事から始めるのが効果的です。最初から全現場に導入しようとせず、1つの現場で試してみましょう。
- 機材の選定:専用のウェアラブルカメラがなくても、スマートフォンやタブレットで始められます。まずは手持ちの端末で試し、必要に応じてヘルメット装着型カメラなどを追加するのが現実的です。
- 通信環境の確認:対象現場でビデオ通話が安定してできるか、事前にテストします。通信速度の目安として、上下ともに5Mbps以上を確保できると安心です。
- 運用ルールの策定:映像の撮影方法、確認の手順、データの保存期間などを簡単なルールとしてまとめます。発注者とも内容を共有し、合意を得ましょう。
- 試行と改善:初回は必ず通信テストとリハーサルを行い、問題点を洗い出します。小さな改善を繰り返しながら運用を定着させていくことが成功のカギです。
また、IT導入補助金などの公的支援制度を活用すれば、機材やソフトウェアの導入費用を抑えることも可能です。申請要件は年度ごとに変わるため、最新情報は中小企業庁や各自治体のWebサイトで確認してください。
まとめ
遠隔臨場は、移動時間の削減、日程調整の効率化、働き方改革への対応など、建設業が抱える課題を同時に解決できる有効な手段です。国土交通省の後押しもあり、今後は公共工事を中心にさらに普及が進むと考えられます。
大がかりなシステム投資は不要で、スマートフォン1台からでも始められるのが遠隔臨場の魅力です。まずは1つの現場で小さく試し、効果を実感するところから始めてみてはいかがでしょうか。
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